やっちまいました。うっかり愛機ThinkPadX31のキーボードに日本酒をぶちまけてしまい、そこから復活までの話です。
それはある3月の夜。PCに向かっている男性がいる。彼の名はかわたそ、しがないエンジニアだ。
いつも通り今日も帰宅した彼、いつもなら適当にWebを徘徊してから寝てしまうのだが、今日は普段を少し様子が違うようだ。
彼が手にしていたファミリーマートの袋の中には珍しく酒が入っていた。
かわたそ「はじめてみるボトルだから気になったんだ。でもこのボトルがあんな悲劇を招くなんて夢にも思わなかったよ」
日本酒をちびちびやりながらWebを徘徊するかわたそ。たいぶアルコールも回ってご機嫌な様子だ。と、そこに新しくタスクバーに表示されたボタンが点滅して彼に誰かがIMで話しかけてきたことを知らせた。かわたそは返事をするためにトラックポイントを操作してウィンドウを呼び出しつつ、文字を打つためにノートPCの脇においていた左手をキーボードの上へともってきた。
と、そのとき!
左手の小指がなにかをひっかけた。そこにあったのは先ほどからちびちびやっていた日本酒のボトル。あっ、という間もなく倒れたボトルはその中にあった日本酒をノートPCのキーボードの上に吐き出した。
一瞬なにが起こったか理解できずに固まるかわたそ。その間にも日本酒はキーボードの上を広がっていく。とりあえず倒れたボトルを起こしてみた。
かわたそ「あのときはいったいどうしたらいいかわからなかったよ。このまま電源をおとしたほうがいいのか、とりあえずこの状況を写真にとったらいいのか、ね。」
かわたそが使っているノートPCは古くからキーボードがバスタブ状になっているThinkPadだ。バスタブ状になっているキーボードはこぼれた水分を特定の排出口から排出できるようになっている。なのでかわたそは冷静に判断し、通常のシャットダウン処理をすることにした。
おっとここでこの状況を写真に撮っておくことも忘れない。
しかしキーボードに触れたかわたそは既に異変が始まっていることを知る。キーボードはおろか、トラックポイントすら反応しないのだ。このとき初めてかわたそは焦りを感じた。そして追い打ちをかけるようにCPUファンが最大風力で回転を始めた。まずい、これはまずいぞかわたそ。
さっとキーボードの酒を拭き取り急いで電源を抜きバッテリーを取り外す。そして裏面を確認すると、ああろうことか本来排出される場所ではない穴から日本酒が漏れ出ているではないか。
かわたそ「この瞬間になって初めて、内部に酒が流れ込んでしまっていると言うことを知りました。もう目の前が真っ黒になる思いでした」
キーボードで防げずに内部に酒が流れ込んでしまったと言うことは最悪の事態も想定しなければいけない。かわたそは即座にThinkPadの分解を決断した。
かわたそ「あのときは何も考えられなかった。ただ助けなきゃって、そう思ったんだ。僕はこの機種を分解したことがあったからね。きっと大丈夫だと信じていたよ。」
ハードディスク、キーボード、パームレスト、ディスプレイ、いくつかの小さなボード、CPUファンを取り外してついにマザーボードを慎重に取り外すかわたそ。予想通りマザーボードの裏側まで日本酒が伝っていた。ふきとれるだけすべての日本酒を拭き取ってもう一度組み立てる。祈りながら電源ボタンに指を伸ばすかわたそ。電源ボタンを押す、・・・ThinkPadが反応することはなかった。
かわたそ「僕のした作業にミスはなかった。完璧だったはずだ。ただ、あのとき写真なんて撮っていないですぐに電源をおとしていたら、そう思うと本当に悔やまれてしかたないんだ。」
そして朝まで眠り続けるThinkPad。かわたそは何度も電源ボタンを押し続けたが反応はやはりない。そうこうしているうちに会社に行かなければいけない時間になってしまった。かわたそは最後にもう一度電源ボタンを押してみる。
「ヴン・・・」
なんとThinkPadが息を吹き返したではないか。しかも何事もなかったかのようにWindowsが起動したのだ。完全に復活したかに見えたThinkPad。しかしパンタグラフに付着した日本酒の糖分はThinkPadの命ともいえるキータッチを完全に殺してしまっていた。
ThinkPadが復活したとはいえ、そのキータッチに喜んではいられないかわたそはその日の夕方ある決断をした。それはキーボード洗浄。
一般的なキートップを外して洗うだけではない、その下のパンタまですべて洗うことにしたのだ。いくら防水構造になっているとはいえ、そこまで水につけて大丈夫なのか、そんな不安もかかえつつかわたそは精製水を買ってきた。
もう一度ThinkPadを分解しキーボードからキートップをとりはずす。キートップもきれいにしなければいけないが、一番きれいにしなければいけないのはパンタだ。この可動部に糖分が付着しているためにあのキータッチが失われてしまっている。その糖分を溶かすために溶媒となる精製水をかけ流す。
それでも洗いきれない部分はパンタすら外すことにした。もしパンタが破損すればそのキーのタッチは永遠に失われてしまう。そのリスクがあることはわかっていたが外すほか、手段はなかったのだ。
そして翌日。
そこには元気にX31のキーボードを叩くかわたその姿が!
洗い終えたキートップとパンタを乾燥させ、すべてを元通りに組み立てて電源を入れる。ついにThinkPadはもとの姿を取り戻したのだ。
かわたそ「もう、ThinkPadの横に日本酒なんて置かないよ!」
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